VRSJ 2025 · WISS 2025 · Naemura Lab

日本酒の味わいと振動の関係のマイクロ現象学

一口の中で移ろう味わいを、振動で導く

日本酒の味わいは、一口の中でも時間とともに移り変わっていく。この移ろいを、手首や喉への振動提示によって誘発できないか。マイクロ現象学の一人称インタビューによって、味わい・注意・感情がどのように構成されているのかを明らかにしました。

日本酒の味わいは、一口の中でも時間とともに移り変わっていく奥深い体験です。しかしこの移ろいは、飲み終えたあとの内省や評価では捉えにくく、味わっている最中の知覚や注意そのものに働きかける方法はこれまで十分に検討されていませんでした。時間変化する振動刺激によってこの移ろいを誘発できないか、そしてその誘発は主観的にどう経験されているのかを探った研究です。

背景

感覚間相互作用を用いて味わいの感じ方そのものを変化させるアプローチは工学・心理学分野で蓄積されてきましたが、その多くは介入した結果としての味わい評価に主眼が置かれており、味わいが時間的に変化する過程がどのように主観的・身体的体験として経験されているのかという現象学的な視点は、あまり導入されてきませんでした。

リサーチクエスチョン

  • 時間変化する振動刺激は、日本酒の味わいへの注意をどう誘導・阻害するか。
  • 振動と味わいの身体的・空間的な結びつきを強めることで、意図した味わいの時系列変化(淡麗・濃醇)を誘発できるか。
  • その誘発は、感覚・注意・感情の構成としてどう経験されているか。

研究の方法

まず振動の時間変化として単純な周波数の切り替えを用い、飲酒中に手首へ振動を提示する探索的実験を行いました。次にその知見をふまえ、味わいと振動の結びつきを強めるために咽喉への振動提示デバイスを設計し、淡麗・濃醇という二つの味わいの広がり方を誘発する二種類の振動提示を提案しました。各試飲のあとには、味わいの時系列変化と注意の移り変わりについて、一人称視点で体験を詳細に記述するマイクロ現象学の半構造化インタビューを実施し、逐語録の分析から体験の内部構造を明らかにしました。

わかったこと

振動の変化は、味わいへの注意を誘導あるいは阻害する要因として機能しうることがわかりました。振動が味わう体験の中に統合されることで意図した味わいの時系列変化が生じる一方、振動と味わいが二つの独立した体験として分離して捉えられ注意配分に偏りが生じた場合には、変化の誘発が生じにくいことも見えてきました。さらに味わい変化は単なる感覚的な変化にとどまらず、身体への馴染みや変化への違和感といった感情的評価と密接に関わっていることが明らかになりました。この研究は「vibe酒」「sakeshake」という名で展示にも発展しています。