Methodology & Advocacy

VRと質的研究法

数字では測れない経験を記述する

有意差は「創造的な行動が増えた」ことを語るけれど、「私は創造的な人間だ」という物語の誕生は語らない。VR研究に質的研究法を根づかせるための、実践と普及活動の活動です。

VRの研究者は、システムを作るのが得意です。そして作ったシステムの評価となると、質問紙のスコアや反応時間、視線の動きといった「数字」を測るのが長らく主流でした。この作法だけでは届かないものを捉えるために、質的研究法をVR分野に根づかせようとしている活動です。

背景

アバターやメタバースが実験室を出て人々の生活に入り込んでいくにつれ、数字だけでは届かないものが増えています。メタバースで何年も暮らしてきた人の友情。ロボットを操作して働くうちに変わっていった自己イメージ。そうした一人称の生きられた経験や、複雑な文脈を帯びた長期的な変化を捉えるには、数を頼みとする実験だけでなく、言葉を手繰るインタビューやフィールドワーク——質的研究法——が必要です。幸い、HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)という分野は誕生のときから人文社会科学と地続きで、国際コミュニティでは質的アプローチが当たり前に使われています。一方、日本のVR研究では、その体系的な導入はまだ進んでいませんでした。

リサーチクエスチョン

VRが日常的な社会的体験へと変わっていくいま、VR研究はなぜ・どのように質的研究法へと視野を広げるべきか。

研究の方法

総説論文「バーチャルリアリティと質的研究法:ナラティブがもたらす認識論と方法論の転回」として、認識論のレベルから道具立てのレベルまでを体系的に整理しました。並行して、学会誌の特集記事の執筆、学会大会でのオーガナイズドセッションの企画、大学院講義でのインタビュー実践演習など、コミュニティに方法論を手渡す活動を重ねています。

わかったこと

大切にしているのは、質的研究を量的研究の「補助」や「予備調査」にしないことです。数字と言葉は、優劣ではなく、違う種類の現実を照らすふたつのレンズです。この認識論的な整理が、自分自身のフィールドワークの土台であると同時に、日本のVR研究に質的研究のレンズを根づかせるための共有財産になることを目指しています。