VRSJ AC2022

ワーキングペアレントのVRパースペクティブテイキング・ワークショップ

相手の視点に立つ体験を、対話の材料にする

VRパースペクティブテイキング(VRPT)だけでは認知的共感が生まれにくく、時に社会的距離を広げてしまう。そこでVRPTのあとに当事者同士の対話(集団間接触)を組み合わせるワークショップを設計し、試行しました。

ハラスメントやすれ違いの多くは、他者の視点を十分に理解できていないことから生まれます。この問題に対して有効とされるのが「集団間接触」——当事者同士が直接対話することです。しかし集団間接触が効果を持つには「対等な立場」「共通の目標」などいくつかの条件が必要で、実現できる場面は限られています。

背景

VRパースペクティブテイキング(VRPT、VRで他者の視点から特定の状況を体験すること)は、他者への態度や行動に影響を与えることが知られています。しかしVRPTには2つの課題があります。(1)情動的共感(心配や思いやり)に比べて、認知的共感(相手の経験や感情を推定すること)が喚起されにくいこと。(2)体験を自己と過度に結びつけることで、かえって対象への社会的距離感を増大させてしまう副作用があること。この研究では、VRPTのあとに当事者同士の対話(集団間接触)を組み合わせることで、両方の課題を解決できるのではないかと考えました。

リサーチクエスチョン

VRPTを組み込んだワークショップは、参加者間の対人関係や議論の進め方にどのような影響を及ぼすか。

研究の方法

他者視点の理解不足から生じる典型例として、「ワーキングペアレント(育児をしながら働く人)」を取り巻く職場の問題をテーマに設定しました。ワークショップは、イントロ→自己紹介→VRPT体験(上司目線→部下=ワーキングペアレント目線の順)→ディスカッション→まとめ、という約150分の流れで設計。協力企業の社員10名(子どもの有無・世代は混在)が参加し、ディスカッションの発話内容をテーマ分析(質的分析)で、また同僚・上司への態度変化を質問紙で評価しました。

VRパースペクティブテイキングの体験シーン。上司目線と部下(ワーキングペアレント)目線のVR映像4カット
VRPTの各シーン。(A, B)上司目線:部下の帰宅の挨拶とメール対応。(C, D)部下目線:子どもとの食事と、仕事中に子どもに手を求められる場面。(工藤ほか, 2022より)

わかったこと

テーマ分析から、VRPTがワークショップに与える影響として大きく2つが見えてきました。第一に、VRPTの体験そのものが直接的な学びをもたらすこと——子育ての大変さや上司側の事情への気づき、そして「他者の視点を想像すること自体の難しさ」への気づきです。第二に、VRPTが参加者間の共通言語となり、ディスカッションを促進すること——シナリオへのコメントを通じて価値観が明らかになったり、経験者からエピソードが引き出されたりしました。一方、職場の人物への態度を測る質問紙の指標では有意差が見られず、機材トラブルなど実施上の課題も残りました。参加者数10名の予備的な検討であり、今後さらなる知見の蓄積が必要です。