IEEE TVCG / VR
融合身体
二人で一つの身体を動かす
VRの中で、二人の動きを混ぜ合わせて一体のアバターを操作する「融合身体」。師匠と身体を共有すると技が伝わる? 失敗したとき、それは誰のせい? 不思議な問いの続く研究です。
VRの中では、現実ではありえない身体のあり方を試すことができます。その一つが「融合身体(バーチャル・コエンボディメント)」——二人のユーザーの動きを混ぜ合わせて(たとえば半分ずつの加重平均で)、一体のアバターを一緒に操作する技術です。
背景
スポーツでも楽器でも、身体の技は「見て盗め」と言われるほど言葉にしにくいものです。では、師匠と文字どおり身体を共有して、内側から動きを感じながら練習したらどうなるのか。さらに、身体を共有したとき、「自分が動かしている」という感覚(主体感)や、失敗したときの責任の感じ方はどう変わるのか。融合身体は、技能の伝達と自己の感覚の両方に関わる問いを開きます。
リサーチクエスチョン
融合身体でのトレーニングは、運動技能の学習をどのように変えるか。また、他者と身体を共有して行為するとき、人は主体感や責任をどのように感じるか。
研究の方法
二人の動きを加重平均して一体のアバターに反映するシステムを構築し、運動学習課題を用いた比較実験を行いました。融合身体での練習と一人での練習を比べ、学習した動きの保持と主体感を測定しています。続く研究では、融合する相手が人間の師匠ではなくAIの場合の伝わり方や、「It's My Fingers' Fault(僕の指のせいだ)」と題した研究として、共有した身体が失敗したときの主体感と責任帰属も調べました。
わかったこと
融合身体でのトレーニングは、一人での練習に比べて、学んだ動きが長く身体に残ることがわかりました。しかも「自分が動かしている」という主体感を適度に保ったまま学べます。相手がAIの師匠でも技は伝わる一方で、その伝わり方は人間の場合とは変わることも見えてきました。「自分の身体」と「自分の行為」の境界は、思っているよりずっと柔らかい。融合身体は、その柔らかさを使ってスキル伝達や協働の新しい形を探ると同時に、「自己とは何か」という古い問いに工学の側から触れる試みでもあります。