Naemura Lab · HCI

ケアとしてのリフレクション支援

オープンダイアローグ形式の対話ボット

「治す」のではなく「開かれた対話を続ける」。フィンランド発の精神医療の思想オープンダイアローグを手がかりに、自分の気持ちを安心して言葉にできる対話システムを探究しています。

フィンランドの精神医療から生まれた「オープンダイアローグ」には、「リフレクティング」という独特の実践があります。専門家たちが本人の目の前で、本人の話について語り合い、本人はそれに応答する義務なく、ただ聞いていてよい——問題を解決するための対話ではなく、対話そのものを目的とする時間です。この対話の形式を、AIチャットボットとして実装した研究です。

背景

リフレクティングでは、自分の話が他者の声で語り直されるのを、安心して聞いていることができます。しかし本来のオープンダイアローグには訓練を受けた複数の専門家が必要で、誰もが気軽に受けられるものではありません。自分の気持ちを外に出し、他者の声を通して聞き直すというケアの構造そのものを、技術で支えられないか——べてるの家で教わった「対話の触媒としての技術」という考え方と地続きの問題意識です。

リサーチクエスチョン

リフレクティングの対話構造をAIチャットボットとして実装したとき、利用者はその体験をどのように受け止めるか。そこにはどのような可能性と限界があるか。

研究の方法

3人のAIがユーザーの話を聞き、ボタンを押すと、AIたちがユーザーの話について目の前で語り合いはじめるチャットボットを実装しました。ユーザーは黙って、自分の話が他者の声で語られるのを聞いていればよい設計です。テキスト対話に続けて音声対話版も実装し、実際に使ってもらった体験を質的に検討しました。

わかったこと

「脳内会議をもう一回経験しているようだった」「秘密を複数人に喋ると、自分の外に出せる」という語りが得られました。頭がまとまっていないからこそ相談したいのに、チャットボットに打ち込むにはまず整理しなければならない——このジレンマに対して、ぐちゃぐちゃのまま声で吐き出せる音声入力が効くことも見えてきました。一方で、自分の言葉をそのまま繰り返されると「聞いているフリのテクニック」に見えて冷めてしまう、という手厳しい指摘もありました。AIによる傾聴の難しさと可能性の両方を示す結果です。AIがセラピストの代わりになるという話ではなく、ケアの構造を技術でどう支えるかという探究として続けています。